東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6084号 判決
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【判旨】
一事故の発生
請求原因第一項の事実(原告俊は、昭和五一年一月八日午後三時一〇分頃、東京都杉並区和泉三丁目一六番一五号先の永福通り方面から和泉仲通り方面に通じる道路(以下「甲道路」という。)と井ノ頭通り方面から大宮方面に通じる道路(以下「乙道路」という。)とがほぼ直角に交差する交差点(以下「本件交差点」という。)に、自動車に乗つて、甲道路を和泉仲通り方面に向けて差し掛つたところ、乙道路を大宮方面に向けて本件交差点に進入してきた被告岸田進一(以下「被告岸田」という。)の運転する普通貨物自動車(練馬四四あ九六六七号。以下「被告車」という。)に衝突されて負傷した。)は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に<証拠>を総合すると、(一)本件交差点は、甲道路と乙道路とがほぼ直角に交差する、石垣等により見通しが悪く、四隅にカーブミラーが設置してある閑静な住宅地内の交差点で、甲道路は、白線により上下各一車線に区分された歩車道の区別のない幅員約5.77メートルのほぼ平坦な舗装道路で、本件交差点の前後において、標識及び路面の表示により一時停止の規制がされ、一時停止線が交差点の入口沿いに表示されており、乙道路は、上下車線の区分及び歩車道の区別がなく、大宮方面に向かつて右側に幅約0.95メートルの路側帯が設けられた幅員約5.74メートルのほぼ平坦な舗装道路で、本件交差点の前後の路上に徐行と表示され、交差点の入口沿いに白線が一時停止線類似に描かれており(本件事故後、標識及び路上表示により一時停止の規制がされた。)、甲乙両道路とも、制限最高時速が毎時四〇キロメールと指定されていたこと、(二)原告俊は、昭和四六年一月一二日生れの男子で、本件事故当時五歳の誕生日の直前であつたが、実母である原告裕子と買物の帰途、甲道路を和泉仲通り方面に歩行していた原告裕子の相当前方の左側車線の中央よりややセンターライン寄りを補助輪付の幼児用自転車で走行して本件交差点に差し掛り、一時停止することなく、進路前方をみたまま、本件交差点に進入したため、右方から本件交差点に進入してきた被告車左前部に幼児用自転車の右側を衝突されたこと、並びに(三)被告岸田は、被告車を運転し、乙道路を大宮方面に進行し、本件交差点に差し掛つたが、通行車両が少なく、また、本件交差点の甲道路側には一時停止の規制がされていることを知つていたことから、甲道路からの車両はないものと軽信し、時速約四〇キロメートルの従前の速度のまま本件交差点に進入しようとしたため、幼児用自転車に乗つた原告俊が本件交差点手前の甲道路の一時停止線付近に差し掛つたのを左前方約一〇メートル付近に発見し、右ハンドルを転把するとともに急制動を掛けたが、間に合わず、本件交差点中央付近で被告車左前部を原告俊の幼児用自転車の右側面に衝突させ、約七メートル大宮方面に原告俊と幼児用自転車をはねとばして転倒させたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を左右する証拠はない。
二責任原因及び過失相殺
<中略>
3 過失相殺
しかしながら、叙上認定の本件事故の発生状況に徴すると、本件事故の発生については、原告俊の実母で親権者である原告裕子が、幼児である原告俊に幼児用自転車を運転させ、原告裕子の相当先方を一人で走行させ、本件交差点に一時停止することなく差し掛らせた点において、監督義務の懈怠による過失があることが明らかであるから、これを被害者側の過失として損害賠償額を決するにつき斟酌することとし、その過失の割合は二割五分とみるのが相当である。
なお、原告らは、原告側に過失相殺すべきでない旨主張するが、本件事故当時、原告裕子が原告俊の相当後方を歩行していたことは前記認定のとおりであつて、更に、原告俊の幼児用の自転車の速度は原告裕子の歩速の二倍程度(おそらく時速七、八キロメートル程度)であつた<証拠判断略>。
また、被告は、原告側の過失割合は七割とみるべきである旨主張するが、前記認定のとおり、本件交差点は、四隅にカーブミラーが設置された、住宅地内の見通しの悪い交差点で、甲道路側に一時停止の規制がされているのみでなく、乙道路側にも徐行の路面表示がされ、一時停止線類似の白線が交差点手前に設けられ、甲乙両道路に幅員の差はなく、むしろ乙道路側にはセンターラインが設けられている等、いずれの側に一時停止の規制がなされるかはかなり偶然的で、甲乙両道路のいずれの通行車両の運転手も出合頭の事故の発生を容易に予見しうる道路状況となつており、被告岸田は、本件事故前から本件交差点の状況を熟知していた<証拠判断略>にかかわらず、甲道路からの交差車両はないものと軽信し、毎時約四〇キロメートルのまま本件交差点に進入した重大な過失があり、また、原告俊の年齢及び同原告の自転車が補助輪付の幼児用自転車であつたことに鑑みれば、同原告の自転車は、昭和五三年五月三〇日公布法律第五三号による改正の前後を通じ、道路交通法(以下、右改正前の同法を「旧道路交通法」といい、右改正後の同法を「新道路交通法」という。)にいう「小児用の車」に当たり、従つて旧道路交通法第二条第一項第一一号にいう「軽車両」に当たらず、また、新道路交通法においても第二条第一項第一一の二号にいう「自転車」に当たらず、従つて右改正の前後を問わず、同法第二条第三項の規定により、同法については、歩行者と扱われ、同法第四三条にいう「車両等」に当たらず(同法第二条第一項一七号)、同法第四三条による一時停止義務は負わない(過失相殺に際し考慮すべき過失としては格別)のであつて、このことに前記認定の原告俊の自転車の速度に鑑みれば、原告側の過失相殺に当たつては、原告俊程度の年齢の幼児が駆け足で本件交差点に甲道路側から進入し被告車にはねとばされた場合に準じてこれを考慮するのが相当であること等を総合勘案すると、原告側の過失割合は前記の程度にとどまるとみるべきである。
(島内乗統)